江戸のヒーロー!火消の職に迫る


江戸のヒーロー!火消しの職に迫る
時代劇や歌舞伎、落語などの題材にされることが多い、江戸の「火消(ひけし)」

江戸幕府八代将軍・徳川吉宗が世にはびこる悪行を成敗する時代劇『暴れん坊将軍』では、徳川吉宗が貧乏旗本に姿を変えて居候をしていたところが火消「め組」だったので、火消=「め組」という印象がありますね。

『暴れん坊将軍』はフィクションですがそこに登場する、「め組」の頭には街中のあらゆる情報が集まってきて、吉宗の良き相談役であり、すこぶる腕っぷしが立ち頭の切れる、男気に溢れる姿に描かれています。

実際にも、火消の組のトップである「頭取」は、江戸の町を火から守るいわばヒーロー的な人気を誇っていたともいわれます。

町民から「火消」がヒーローとして人気があったのには、「火消」という職業が消防以外の役割や、江戸の繁栄に伴う情勢の中で設立されてた「火消」の背景があるようです。

江戸の火事の原因は?


江戸の火事の原因は?
江戸の火事の原因は?
江戸は「火事と喧嘩は江戸の花」といわれるほど、火事が絶えない町でした。

江戸時代は家屋のほとんどが木や紙で出来ていた上に、調理にしても暖を取るにしても明かりを取るにしても、火が使われていたので、失火が原因の火事が起きやすかったのです。

火災原因は他の地域でも起こりうる事ですが、他所と違うのは江戸は「100万都市」ともいわれるほど、人口密度が極めて高かったということにあります。

徳川家康が江戸幕府を開き、参勤交代が行われると全国各地から訪れる大名のために、江戸城周辺には大名・武家屋敷が設けられました。それに伴い町人の人口も増加しました。

中でも人口の半数を占めていた町人が住む長屋は所狭しと立ち並び、燃えやすい家屋にひとたび火が付くと、江戸独特の空風にあおられて、連なった長屋に次々と燃え移って大火になってしまいました。

また、放火による火災も多かったそうです。放火の動機は、生活に困窮した者が火事場泥棒を目的としたもの、奉公人による主人への不満からの報復、色恋沙汰などがあったようです。

たびたび起きる大火には、代々の将軍も悩まされていましたが、幕府の対策としては江戸城の防備を第一に考えていた為、町人の「火消」対策はほとんど成されていませんでした。

■参照:3年ごとに江戸が燃えた!?江戸時代の大火事はなぜ起こった?| 江戸ガイドより

「町火消」設立


「町火消」設立
「町火消」設立
町人の町を守る消防組織は、江戸中期に名奉行で知られる、南町奉行の大岡忠相(おおおか ただすけ)により「町火消」が設立されました。

「町火消」は、隅田川から西を担当する『いろは48組』と、隅田川の東側を担当する『本所・深川の16組』がつくられました。

各組には、「め組」でよく知られている長い棒の先に飾りがついた纏(まとい)を、火事現場の目印としてつくり、纏はそれぞれの組のシンボルになりました。

■纏の参照:江戸の町火消しと纏|江戸東京探訪シリーズより

水が貴重だった江戸時代の消火方法は水で消火するのではなく、延焼を食い止めるために火事周辺の建物を取り壊す「破壊消防」でした。

町火消のほとんどが建築に精通している身体能力の高い鳶職で構成されていたので、家屋の解体を迅速に行えたのでした。

「町火消」頭取の役割


「町火消」頭取の役割 町火消は、「頭取」を筆頭に、「小頭」、「纏(まとい)持ち」、「はしご持ち」、「平人(ひらびと)」で構成され、大きな組だと数百人にも及ぶ組織でした。

『頭取』は町奉行の管轄下にあったので奉行所と繋がっており、奉行所への伝達や奉行所からの連絡事項を組に伝えたりする権限がありました。

江戸の火消しは、大火に敢然と立ち向う男達ですから江戸っ子生粋の威勢がよく、せっかちで気性が荒い者も多く、火事場での喧嘩も日常茶飯事だったそうです。

そんな荒くれものを統率する『頭取』は、腕っぷしが強いだけでなく、人望と威厳を兼ね備えた者でなければなりませんでした。

また、普段は町人から頼れる存在として町内のもめ事の仲裁や解決、不審者を追い払うなどの町を取り締まる役割や、祭りごとや商家の冠婚葬祭の手伝い、相談役など非常に広い人脈を持ち、ひとたび『頭取』が顔を出せば何事も治まるといった町の「顔役」として江戸中でも広く知られる存在でした。

『頭取』には町の有権者が選ばれていましたが、顔が広く町のあらゆる情報が頭取に上ってくるので、町奉行からも町のお目付け役としての役割を任されていたようです。

町人のヒーロー「町火消」


町人のヒーロー「町火消」 町火消の『頭取』は、いざ火事となれば勇猛果敢に立ち向かい、町のあらゆることに対して縁の下の力持ちとして働いていたので、町の人々からの尊敬を集め人望が厚かったことでしょう。

その立ち居振る舞いは、「粋」で「いなせ」

まさしく江戸生粋の誰もが憧れる男として、与力(町奉行の支配下で、江戸の司法・警備・治安維持をする江戸時代の職業)・力士ともに「江戸の三男(さんおとこ)」といわれ、ヒーロー的な存在であったようです。

頭取自ら大喧嘩を起こすような気性の荒さはあったでしょうが、そこは江戸っ子も慣れたものです。

ですが、『弱きを助け強きをくじく』人情味の厚さは人一倍だったのではないでしょうか。

権威を誇示する正義ではなく、弱い立場にある者を守り、他を圧巻する裁量力と統率力を瞬時に発揮できる町火消『頭取』の「粋でいなせ」な生き様は、町人からの信頼を一身に受ける、まさしくヒーローそのもののように思えます。

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